彼岸花の咲く頃に
この歌を聴けば、あの頃を思い出す…
なんてことありますが、
この花を見れば、あの頃を思い出す…って花もいくつかあります。

彼岸花は幼少の頃に亡くなった祖母を思い出します。
というより私にとって祖母の記憶はそれだけです。
当時、『亀の甲羅に願い事を書くと叶う』という
亀さんにとっては非常に迷惑な噂が子どもたちの間でありました。
私は、20センチくらいの亀なら道端で遭遇するような田舎で育ちました。
早速お友達「のりちゃん」とペンを片手に亀さがし。
すると、
とてもとても大きな虹を発見!
ホンマにきれいやなぁ…と見とれながら
『あの虹が生えている根っこの所まで行ってみよう』
という私の提案にのりちゃんも大賛成。
なんともメルヘンな話でおバカな話。
歩けど歩けど虹の根っこは見つからず、
見つかるわけもなく、
ついに山の奥へ。
当然のことながら迷子で半泣きになりかけたその時に、
『わたし、良いモンもってきたんや』
のりちゃんは自信ありげに方位磁針をポケットから出しました。
私は方位磁針なんぞ知るわけもなく
あった所でこの山の中、何の役にも立たないのだが
それでもなんとなく勇気がわいてきて
方位磁針の指示のもとさらに山奥へ。(正しくは北へ北へ進んでいた)
すると、亀発見!
やったぁ~と飛び跳ね、方位磁針に感謝しつつ
のりちゃんは亀の甲羅に太いマジックで『てつぼう』と書きました。
逆上がりに憧れていた私たちの願いはこれで叶うと信じて・・・。
そして山中のチョロチョロ流れる小さな川に、
『てつぼう』と書かれた悲運な亀を放ちました。
もはや何の迷いもなく、絶大なる信頼を得た方位磁針の指示に従い、
さらに針の示すべく歩き進むと( つまり北へ北へひたすら北へ歩き進むと )
今度は毒々しい赤い花々が一面に咲き乱れているところに着きました。
私はその赤にすっかり魅了され、
これはきっとおばあちゃんが喜ぶはずと無我夢中で摘みました。

夕方近く、のりちゃんのお母さんが探しに来てくれて
私たちは無事生還しましたがすごく叱られたのは言うまでもありません。
後の話によると、
その山というのは、のりちゃん宅のすぐ裏で
私たちが裏山に行くところを近所の人に目撃されていて
のりちゃんのお母さんに電話してくださっていたとのこと。
帰宅するなり、洗濯していたおばあちゃんに駆け寄り
私は飛び切りの笑顔でその赤いお土産を差し出しました。
するとおばあちゃんは受け取るなり、私を睨みつけ
玄関の外に投げ捨てたのです。
「これはな、彼岸花っていうてな、家に持って帰ったら火事になるねんで!
とにかく手を洗ってきなさい!!」
火事になるねんで・・・。
とても悲しかった。
捨てられたことも悲しかったが
火事になる花と知らずに持って帰った自分が悲しかった。
火事になったらどうしよう、私のせいだ。
どうかおうちが燃えませんように。
涙ながらに神様に祈った。
のりちゃんは「そんな花いらん」と持って帰らなかった。
のりちゃんはきっと知っていたのだ。
おばあちゃんは泣きじゃくる私に
「これはな、お彼岸のころに咲くから彼岸花って言う名前なんやで。
きれいやけどな、茎にすごい毒があるんやで。
そやさかいに子どもが触らんように、
昔から火事になるし触ったらアカンって言うんや」
と教えてくれた。
毒がある花なんや・・・。
「火事はウソなん?、おばあちゃん」
「さぁ、わからん。でも捨てたし、もう大丈夫や」
「よかったぁ、そしたらおばあちゃん、
亀の甲羅に願い事を書いたら叶うっていうのはホンマなん?」
「聞いたことないわ、ウソやと思うで」
「・・・・・・・・。 ・・・今日、亀に書いてん。」
「亀って、ばい菌いっぱいやで、手ぇ洗っといで。
亀も彼岸花も、もう絶対さわったらアカンで、あほやなぁ」
・・・・おばあちゃんの記憶はこれだけ。
しかしこの日のことだけは鮮明に覚えています。
だから彼岸花を見ると「触ったらアカン」と体が記憶しています。
有毒なのにわりと身近に咲いているのは
ネズミや虫やモグラなどが田畑や墓地を荒らすのを防ぐため
その茎の毒を嫌って避けるようにと、
人手によって植えられものの名残とか。。
そんなこんなで
彼岸花=おばあちゃん。
虹の根っこ、亀の迷信、方位磁針、のりちゃん、そして私。
何ひとつ悩みもなかったあの頃。
なんにせよ、1番の被害者は
「てつぼう」と書かれた亀であることは間違いない。
写真撮影:青木繁伸氏(群馬県前橋市)

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